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Jettrain

 

省エネと高速化を目指して

 長らく鉄道界へのガスタービン応用が途絶えていた中、1990年代以降になってアメリカでも徐々に鉄道の高速化に注目が集まるようになりました。連邦鉄道局(FRA)は1995年、次世代高速鉄道プロジェクトを発表、このプロジェクトの目標は電化や新線建設など地上設備への投資をできるだけ避け、非電化でも電気運転並みの高速性と高加速性を達成可能とし、同時に温室効果ガスの排出を抑制するものです。これを実現するためには軽量高出力のガスタービン機関車と大容量車上電力回生システムが必要となります。そこでFRAは1996年にテキサス大学に電力回生システムの開発を、1998年にBombardier社にガスタービン機関車の開発を依頼し、後者が2002年にJettrainという商標がついたガスタービン機関車として誕生しました。

設計方針

 上記の目標を達成するためには軌道破壊が少なく高速性能に優れた軽量高出力の動力車、汚染物質の排出が少ない高効率の動力装置、大型トラックを想定した踏切衝突時の十分な衝撃吸収能力を備えた強靭な車体が必要となります。5000馬力クラスになると中速ディーゼルエンジンの領域で、最大回転数が1000rpm辺りと低速となり非常に重くなります。たとえ240km/h運転の高速機関車を実現できても軌道負担は途方もないものとなり、保線には大変な負担がかかります。必然的にディーゼルエンジンは除外され、軽量性に優れ比較的効率の高い中型の航空転用ガスタービンを電子制御して車両用に最適制御することとなりました。このプロジェクトにはアメリカならではのバックアップもあったようです。アメリカ軍はM1戦車での教訓からか、早いかなり早い時期に軍用車両のハイブリッド化を視野に入れていたようで、自動車用とはレベルの違う高出力高信頼性を要求される分野での高性能大出力ハイブリッドシステムを当時すでに模索しており、そのプロトタイプとしての位置づけから予算配分も優先された可能性があります。

構造

 次の図がその内部構造です。赤い部分がガスタービンで出力は5000馬力、回転数は14800RPM、重量は525kgと非常に軽く、図を見ても如何に小さいかがわかります。大容量の高速発電機開発が間に合わなかったためか、4:1程度に減速され、2台の発電機(青い部分)が結合されています。吸排気系を入れてもコンパクトにまとまっており、アメリカの最も厳しい最新の衝突強度基準をクリアした車体でも重量は90トンに収まっています。

1 Fuel Tank
2 Gas Turbine Engine
3 Gear Box
4 Alternators
5 Air Reservoirs
6 Flexible Couplings
7 Carbody Louvers
8 ATC Unit
9 Cushion Shelf
10 Engineer’s Seat
11 Auxiliary Transformer
12 Engineer’s Console
13 Diaphragm
14 Inertial Filters & Silencer
15 Engine Secondary Filters
16 HVAC System
17 Motor Block

8 Fire Suppression
19 Battery Charger
20 Air Compressor/Air Dryer
21 Alternator Blower
22 Pneumatic Brake Controls
23 Turbine/Gear Box Lube Oil Cooler
24 Control Racks
25 Turbine Exhaust Duct
26 Turbine Equipment Rack
27 Traction Motor Blower
28 Turbine Power & Controls
29 Batteries
30 Toilet Room
31 Rheostatic Grids
32 Exhaust Silencer
33 Gearbox Equipment Rack

 ディーゼルで5000馬力級を実現するにはどのような構成になるか比較して見ましょう。アメリカで高速旅客用として使用されているディーゼル機関車は3000〜4000馬力級が120〜130トン程度ですが、5000馬力級になると貨物用となり重量は一気に200トンを超えます。そのため高速用では軌道破壊が大きくなりディーゼルで5000馬力級の高速旅客用は量産されたものはありません。液体式でかろうじて130トンクラスに収まるものが最近になってヨーロッパに登場しました。

 次の図はVoith社が開発した最新のMaxima 40 CC 液体式ディーゼル機関車の内部構造図です。縮尺は上の図とほぼ同じですが、軸配置がC−Cとなっている分、やや車体が長くなっています。

 4770馬力という大出力の中速ディーゼルエンジンが搭載されているため、車内はエンジン(赤)とラジエーター(緑)が大きなスペースを占め、軽量性に優れる液体式をもってしても重量は135トンに達し、液体変速機(青)自体もかなり大型で、重量はなんと9トン、JetTrainに搭載されている交流発電機よりもかなり大きくなっています。

性能

 次の図は両者の引張力曲線を示したもので、上がMaxima 40 CC、 下がJetTrainです。横軸が時速、縦軸は牽引力で、単位がKN(キロニュートン)となっているので9.8で割るとトンに換算できます。
 減速比、粘着重量が両者で大幅に違うものの、それぞれの特徴がよく出ています。

 Maxima 40 CCはDD51と同じように低速、中速、高速用のコンバーターを切り替えて広い速度域で効率低下を押さえた液体式で、広い範囲で途切れの無い一定出力を発生できるようになっています。しかし、液体変速機は効率面での進歩はほとんどなく、直結段が無いため最新型でも伝達効率が電気式に劣り、動輪周引張力はJetTrainより15%程度低くなっており、出力差以上に差が開いています。なお、Maxima 40 CCのグラフにある黄色の曲線は低速での牽引力制限を示しています。これは低速ではコンバーター効率が低下するため高負荷では加熱し、連続的に発揮できる牽引力が外気温に応じて制約されるためです。

 JetTrainの営業時の基本編成は両端に動力車を配し、中間に7両の振子式客車を挿入した編成が予定されていました。次の表は編成は異なりますがその加速性能を示したもので、磁気浮上、非粘着推進のTransrapidと比較されています。

 この表のJetTrainは機関車1両で客車4両を牽引したときの性能となっています。Transrapidが鉄車輪の常識を超えた抜群の加速性能を示しているのは言うまでもありませんが、新幹線に慣れた日本人の視点で見るとJetTrainの性能は今ひとつさえません。5両で5000馬力ですから1両当たり1000馬力、5分で200km/hまで加速するあたりはちょうど出力が似通っている新幹線の0系電車と同じであり、妥当な性能と言えなくもないですが、いくら非電化車両といっても50年も前の0系並では情けないと感じます。何事も重厚長大な傾向にあるアメリカでは客車といえども重量が60トンに迫るのが普通で、軽量化を優先する日本やヨーロッパの高速鉄道とは事情がかなり違いますが、もう少し改善の方法は無いのかと考えさせられます。

 イギリスのInterCity 125もJetTrainと同様、両端に動力車、中間に7両の客車を組み込む編成が基本ですが、その客車の重量は33.5トンしかなく、出力不足のディーゼル動力で如何に高速化するか苦労しており、設計方針が根本から異なっているようです。JetTrainはこのように高速列車としては異例に重い客車を牽引しているわけですが、それでもInterCity 125やその他のヨーロッパの高速ディーゼル列車が200km/hまで加速するのに6分以上も要し、最高速度もその辺りで頭打ちとなる状況と比較すると明らかに異なる性能を持っています。

 ちなみにInterCity 125の中間客車7両を間に挟み、両端にJetTrainを連結して牽引させた場合は200km/hまで約2分30秒で加速可能になり、新幹線で言えば700系電車にある程度迫る性能となります。
 なお、低速での高加速をうたい文句に誕生したN700系では200km/hまでの加速に要する時間は500系とほぼ同じ約1分40秒となっていおり、粘着鉄道に限れば世界的に見ても新幹線が異例の加速性能を持っていることがわかります。

 

プロモーション

 下の図はアメリカでの高速鉄道計画の分布を示したもので、各地で様々な検討が行われており、多くは非電化での高速化達成を目指しています。

Bombardier社はこれらの地域へのJetTrain売り込みを積極的に行い、特に活動が活発なマイアミ、カルガリー、カナダなど北米各地を訪れ、電化せずに既存のインフラを活用して240km/h運転を実現し排気ガス公害が少ないJetTrainの優位性を訴えました。次の図はカナダ向けのパンフレットに掲載された予想図です。

これは同社が作成したプロモーションビデオです。再生にはQuickTimeプレーヤーが必要です。)

 

 

挫折

 JetTrainのもっとも有力な候補地はフロリダの高速鉄道でした。ここはかなり以前から高速鉄道計画があり、さまざまな方式が検討されていましたが、JetTrainが登場したことで実現へ向けて大きく前進、2003年10月にJetTrain採用が決定しました。ところが、多額の公的資金を必要とする高速鉄道に対する反対も根強く、特に航空や道路関連企業のロビー活動が活発で、翌年11月2日に大統領選挙と同時に行われた住民投票で高速鉄道計画自体が否決されてしまいました。こうして同計画は実現のめどが立たなくなり、JetTrainの営業運転の可能性は消えていったのです。

 北米での高速鉄道計画は多数存在しますが、同時に反対派も多数います。航空、バスなど競合企業や高速道路建設で利益を得ている企業にとっては迷惑な存在で、公的補助を受ける高速鉄道相手では不平等競争だと主張して実現しないように積極的なロビー活動を展開しているようです。しかも国や州政府の慢性的な資金難があるため積極的な援助は受けられず、どの地域でも実現の目処は立っていません。そのため、Bombardier社は2005年、ついにプロモーション活動を中止、jettrain.us、jettrain.caなど複数の独自ドメインをとって独立させていたウェブサイトも閉鎖されました。

 

イギリスで走るか?

 2006年になって、イギリスでJetTrainに関心がもたれているというニュースが流れました。イギリスではInterCity 125によって1975年から非電化で200km/h運転を行っていますが、すでに30年以上経過し車両の老朽化が進み、順次エンジンの更新などで対応しているものの、抜本的な性能改善は行われていません。世界の高速鉄道の主流が300km/h以上へと移行する中でイギリスでも高速鉄道に関する議論が活発になってきました。資源の無い狭い国土という点では日本に似ており、電化による高速化が理想的です。しかしすでに非電化で高速運転している区間が長い点は日本と正反対で、これらを電化するには経費的に現実味が乏しく、200km/h運転可能な分散式ディーゼル動車を投入して改善を図ろうとしていますが、性能に限界があり期待通りにはなっていないようです。しかも高速専用線が望めない以上、衝突時の乗客の安全確保に不安が残り、優等列車で高水準のサービスを提供するには客室の騒音が激しいディーゼル動力分散式には相変わらず抵抗があり、何らかの新しい方式を求めている状況でした。
 今世紀になってBombardier社が3200馬力の機械式ガスタービン機関車を両端に配した列車(左図、Jetrainと称し、名称的にはJetTrainの原型となるものの、駆動方式はまったく異なる)やJetTrainをダウングレードしたイギリス版を提案したこともありましたが、それに対する動きは特にありませんでした。
 そして今回、British Airwaysの前代表取締役で現在イギリス政府の運輸顧問を務めるRod Eddington氏がJetTrain方式に興味を示し始めたのです。イギリスの高速鉄道に対しては磁気浮上方式、TGV方式が提案されていますが、磁気浮上方式はまだ上海での短距離の実績しかなく、建設に膨大な経費を要する点や信頼性にまだ問題があるとされ、TGV方式は電化に要する経費が問題となっています。そこで非電化で高速化できるJetTrain方式が注目されました。
 JetTrain方式に期待されるもうひとつの理由として、要求条件を変えることでアメリカ向けの本来の設計速度240km/hを大幅に上回る列車にできる点です。ガスタービン動力の場合、電気式でも1両5000馬力は余裕で、必要があれば1万馬力でも可能です。1万馬力となった場合は電動機の制約で動力車の軸配置がB-Bでは厳しく、TGVのように客車にも電動機を配置する必要が出てくるでしょう。しかし、現実的には高出力化よりも編成全体の軽量化が最も合理的です。上にも書いたようにイギリス向けに設計すれば軽量化によりかなり高性能化が可能で、InterCity 125と同じ編成で両端の動力車をJetTrainに置き換えて減速比を高速化した場合、300km/hまで約9分で加速可能(客車1両積車40トンで計算)となります。設計速度300km/hの従来型TGVにもまだ及びませんが、非電化車両でこれだけの性能が達成できればかなりの説得力を持つことになります。一方、JetTrain方式はまだ騒音や運用面で実績が無く、高価な化石燃料に依存する点が問題とされており、最近の原油高騰と地球温暖化の問題を自動車、航空機と比較してイギリスがどう判断するかが注目されます。、

オバマ政権

 環境対策に消極的だった共和党政権に変わりオバマ政権が誕生、アメリカでは景気対策を兼ねた環境投資が積極的に行われるようになりました。配分される予算は微々たるものの、鉄道にも政府補助がなされるようになり、車・航空機優先の風潮にやや変化が生じ、全米各地の高速鉄道推進団体に活気が出始めています。対中国と事なりJR東海も新幹線の売り込みを積極的に行っており、鉄道高速化の本格的な波がやっと訪れるのではと期待されます。電化では採算面で厳しい路線での300km/h以下の領域で再びガスタービン車両が活路を見いだすチャンスが訪れる可能性があります。航空機、自動車よりは環境面で有利ですが、電気運転に対してはコスト面で有利となる可能性があるものの環境面で劣るため今後どのように扱われるか注目されます。

 

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