長所・短所

特徴は?

  ガスタービンもディーゼルやガソリンエンジンと同じ内燃エンジンの部類ですが、その基本構造はこれまで述べてきたように大きく異なっています。
 ピストンエンジン、つまり内燃式往復動機関ともっとも異なるのは非常に小さい体積で連続して大量の燃焼ガスを処理できることです。これを自然界の生物と比べて見ると興味深いものがあります。人は呼吸をするとき吸って吐いてを繰り返します、酸素を吸い込み排気ガスを吐き出すという繰り返しです。当たり前のこととおもっていますよね。ところが自然界にはこの吸って吐いてという呼吸の間欠的リズムがある意味ではないといえる種が存在します。ちょうど吸気行程、排気行程が時系列的に順に並んで繰り返される往復動式内燃機関と、それらが同時に処理されるガスタービンとの違いそのもののように。
 空を飛ぶ生き物は昆虫のような軽量ものを除いてある程度以上の質量を持つものに限ればコウモリと鳥くらいです。前者は哺乳類、後者は鳥類、ところが不思議なことに哺乳類には空を飛べるものは長い進化の過程を見渡してもごくわずかしか存在せず、ましてや鳥のように凄まじい飛翔能力を持ちヒマラヤ越えまでするようなものは過去も含め存在しません。
この違いはどこに起因するのでしょうか。動力装置の筋肉に基本的な差があるのがわかっていますがおそらくこれは結果的なものでしょう。その根源は給排気システムにあると言えます。当初魚類で獲得した連続的な吸気システム、つまり水流任せの鰓ですが、両生類、爬虫類と進化する過程でこのシステムを捨てて吸気排気を繰り返す往復動的な給排気システムを採用しました。
しかし爬虫類から進化した恐竜は巨大化するにつれてこの給排気システムでは限界が生じてきました。巨体の維持はもちろん、恒温動物となったことによる巨体の体温維持、その巨体で生存競争を勝ち抜く運動能力の維持、どれもが莫大な燃料を消費します。つまり大量の酸素を必要とします。こうして巨大化しつつある恐竜は生存のために酸素供給性能が不足してきたのです。その中で進化してきたのが気嚢システム、人で言えば息を吸い込むときの動作はもちろん、吐き出すときの動作でも肺に酸素を供給するシステムを獲得したのです。これによって恐竜は徐々に酸素を連続的に取り入れることができるようになり後に鳥類として進化する切り札を獲得して行くこととなります。まさにこの酸素供給能力の差が自然界で飛翔という莫大なエネルギーを必要とする能力を手中に収めるかどうかの分かれ目となったのです。同じことが人工物のエンジンの世界でも起こり、往復動式内燃機関とガスタービンの根本的な性能差として現れています。

 一方エンジンの世界では大量の空気が連続的に流れるというシステムはそのまま長所ともなり短所ともなっている面もあります。


 飛行機のエンジンですからすぐ思いつくのが
軽くて大きな力を出せることです。これが最大の特徴といえるでしょう。
次の表は各種エンジンの諸元を示したものです。

形式 出力(hp) 重量(kg) 長さ(m) 幅(m) 高さ(m) 効率
ガスタービン WR21 33800 45974 8.00 2.64 4.83 43 船用(エンクロージャー込)
LM6000 57330 8170 7.30 2.50 2.50 42 船用
LM2500 33600 4682 6.52 2.04 2.04 37 船用
LM1600 20000 3720 4.24 2.03 2.03 37 船用
LM500 6000 903 2.96 0.91 0.91 31 船用
MT30 47600 6200 9.17 4.54 3.48 40 船用
SF40 5493 525 1.65 0.66 0.97 33 ジェットトレイン
T700-GE-701C 1890 207 1.17 0.40 0.40 29 軍ヘリ用
T55-GA-714A 4168 377 1.96 0.62 0.62 27 軍ヘリ用
CT7 2520 244 1.24 0.40 0.40 30 ヘリ用
T58-140 1400 154 1.5 0.5 0.5 22 ヘリ用
MAKILA 1A2 1657 247 1.84 0.5 0.56 29 ヘリ用
LV100-5 1500 1043 1.43 0.95 0.92 36 戦車用(減速機構込)
ディーゼル SA6D140-HD 580 1670 1.48 1.33 0.76 気動車用
SA16V170 1700 6336 2.78 1.41 1.70 機関車用
MTU 16V 4000 2700 7173 3.19 1.59 1.35 42 Talgo XXI
MTU 20V 4000 4023 9450 363 1.47 2.06 43.4 機関車用
20V 8000 M71 12203 48100 6.62 1.85 3.29 44.5 高速船用
12V 183 TD13 738 1430 1.63 1.29 0.87 38 気動車用
QSK 19R 750 1890 気動車用

5TDFM

800 1040 1.41 0.96 0.58 39.7 中戦車用
SACM V8X-1500 1500 1700       38.5 戦車用
RTA96-C 108920 2300000 26.7   13.2 48.8 船用
18V48/60CR 28620 259000 14.1 4.7 11.9 48.7 船用
L40/54 5724 71000 7.52 5.9 4.34 46.1 船用
電動機 1475 1460 TGV
  954 740         AGV 永久磁石
  402 450 300系
  308 830 100系
ガソリン  R-4360 4300 1757 28-cylinder Pratt & Whitney

 これを見ると馬力あたりの重さが100g程度のものがごろごろしています。2㎥に満たない体積で500kgほどの重さのエンジンが連続して5000馬力も出せるなどちょっと想像しにくい世界です。最新のディーゼルでもまさに大型トラックサイズ、10トンもの重量があっても4000馬力に満たないのです。ガソリンエンジンでも大型RV車サイズを越えてしまうでしょう。最新の新幹線用の誘導電動機でさえも300kW発生するのに300kg以上もあるのです。空からガソリンエンジンがあっという間に追い出されたのも無理のない話です。最近の超高速回転の交流モーターなどはガスタービンに並ぶものもありますが、少なくとも自分で火を炊いてエネルギーを発生する動力装置で、まともなものでは、ガスタービンのそばにもよれないでしょう。もしあるのならとっくに飛行機に使われているはずです。
 「まともなもの」という断りが入りましたが、異端的なものならあります。ロケットはさらに強力ですし、特殊燃料を使うレース用のエンジンは小型ガスタービンに肉薄するものもあります。しかし、これらはあっという間に寿命が尽きてしまう、いわば使い捨てエンジンです。小型軽量という面ではバンケルロータリーも有名で、擬似的な回転機関、ディーゼル燃料が利用可能など通常のガソリン機関にない特色があります。しかし、実用的には数百kW級までで自動車やモーターボートなどが対象となり、大出力の実績がなく性能的に航空用ガスタービンには遠く及ばずなど難点があるようです。

 上の図は25000kW、つまり33500馬力に達するエンジンの例です。右下に人が立っていますが、大きさを比べてもいかに小型かわかるでしょう。この出力は規定の環境での連続定格で、瞬間最大出力ではないのです。出力を一桁間違えたのではと思う人のためにもう一度確認しておきます。二千五百ではありません、二万五千です。500系新幹線電車一編成よりはるかに強力なのです。ほかのエンジンだったら大きな建物ほどの大きさが必要です。

ジャンボジェットのエンジンがこれと同じくらいです。ジャンボのエンジンというと大きいと思うかもしれませんが、あれは大きなダクトの中に一種のプロペラであるファンをいっしょに組み込んでいるから大きく見えるのです。ファンを回しているエンジンはあの大きなダクトの中の芯のような小さなものです。

 次の特徴は燃えるものなら何でも燃料になるという点です。何でもといっても低質の重油など適さないものもありますが、基本的には液体か気体の燃料なら大丈夫です。ジェット燃料というとすごい燃料のように聞こえますが、灯油とほぼ同じ成分です。小型のガスタービンはこれを使いますし、軽油やガソリンはもちろん、アルコールや天然ガス、水素までエンジンをほとんど改造することなく利用できます。特に代替燃料として有望視されている天然ガス利用ではすでに長い実績を持ち、タービン翼の汚染がないためメインテナンスが簡略化される利点も持っています。最近注目されているバイオエタノールもガソリンなどの添加なしに直接使用することが可能です。これらは石油がなくなっても生物資源や太陽から作れるものです。さらにガス化により石炭や廃棄物とされていたような低質油までも燃料として使われようとしています。

 

 低速回転で大きな回転力を発生するのも特徴です。この性質は車両用で重要な特徴のため別の項で詳しく説明いたします。最近では高効率軽量の電気式動力変換方式が実用化され、この利点は薄れつつありますが、構造の単純さと軽量性を要求される領域では有利な特性となります。

 騒音と振動が小さいのも長所です。消音器らしいものをほとんどつけていないジェット機やヘリの騒音を連想しますので騒音が小さいというと意外に思うでしょうが、ガスタービンの騒音の主体は比較的消音の容易な圧縮機、タービン翼からの高周波音で、消音の難しい低周波音は燃焼器から出る程度で比較的少なく、低周波音と低周波振動が主体のディーゼルと比べるとずっと防音しやすいのです。都市部など騒音、振動が問題となるような場所でも設置条件はディーゼルよりかなり緩く、高価なガスタービン発電セットを設置してもメリットが出る場合があるほどです。実際に体験できるのはジェットフォイルとディーゼル駆動の高速船を乗り比べることです。ガスタービン船の静かさに驚くでしょう。もちろんディーゼル船独特の振動はまったくありません。船外騒音も最大出力時で90〜100dB程度とされており、8000馬力近いガスタービンが回っている割にはよく消音されており、キハ391の起動時とは比較にならない静かさです。

 そのほか、潤滑油の消費が極端に少なく、ディーゼルの数十分の一しか必要としません。また、エンジンを冷やすしくみが非常に単純です。ディーゼル車両のような大げさなラジエータは不要で、ちょっとした換気扇くらいですみます。面白いのは寒いほどエンジンの性能がよくなること。しかも少々の寒さなら一発始動であっという間に最大出力に持っていけます。ガソリンやディーゼルのように長いことガラガラアイドリングしてフォーミングアップする必要もありません。排気ガスがきれいなのも長所です。気動車の発車というと、もうもうと白煙や黒煙を吹き上げて独特の香りが漂い、あたりに霞がかかるのが常ですが、ガスタービンではこんなことはありません。旅客機のエンジンがもしディーゼルだったら空港の視界は利かなくなり公害問題は大変なことになるでしょう。何しろ離陸時には十万馬力以上でふかしているわけですから。

 車両用にはあまり関係はありませんが、1機当たりの出力が非常に大きくできる点も長所です。 船用の低速ディーゼルなら1機10万馬力近いものがありますが、非常に大型になります。ある程度小型化できる高速ディーゼルでは2000馬力台、中速ディーゼルでも20000馬力が限界で、大出力の発電所や高速艦艇には対応できません。その点ガスタービンはこの制約が少なく、航空転用のLM6000で1機5万馬力を優に超え、これを元に開発した発電用のLMS100では130万馬力を超えています。

欠点は?

 一番の問題は燃料を大食いすることです。さらに困るのがアイドル運転状態でも結構な量の燃料を消費することです。これらがガスタービンの普及を阻む最大の要因ですのでこれも別項で詳しく解説いたします。

 エンジン価格が高価な点も問題です。過給器の製造技術を応用して量産されているマイクロガスタービンなどを除くとガスタービンはディーゼルよりかなり高価で、5000馬力級で3〜4倍の価格となります。つまりガスタービン機関車を作った場合、エンジンだけでほぼディーゼル機関車全体の価格となることを意味しています。

 高速回転のため用途によっては複雑で重いギアボックスを必要とします。毎分1万〜2万回転はざらで、特に小型のものでは10万回転前後で回るため、スクリューやプロペラ、車輪のような低速回転のものを直接回すには不向きです。しかし、トルク特性上、液体変速機を省略できる場合もあり、伝達機構全体ではディーゼルよりかなり軽量化できる場合があります。さらに近年は非常に小型化できる高速回転発電機を直結することでこの高速回転という欠点が逆に利点になる場面も出ています。

 処理する空気量が多いため吸気口や煙突を広くする必要があります。そのため消音器が大きくなり、給排気ダクトが客室や貨物スペースに影響することもありえます。

 圧縮機の羽根が汚れると効率が落ちるため、ごみのないきれいな空気を吸わせないといけません。ゴミの少ないところを飛ぶ飛行機では問題ありませんが、浮遊微塵が多い地上や塩分を含む水滴が浮遊する海上では問題となります。

 出力軸が停止か超低速回転の状態でフルにするとものすごい騒音を発生するため鉄道車両などで直結駆動方式を採用すると駅発車時などに騒音問題が生じます。

 また、ガスタービンはほぼ連続して一定の出力を発生する分野で主に利用されてきたということもあり、鉄道のように頻繁にアイドルから最大まで急激に出力が変化するような分野での利用実績が乏しいという問題もあります。ディーゼルにとってもこれは過酷で、イギリスで長い歴史のある高速ディーゼル列車インターシティ125では出力重量比が低いためどうしてもエンジン負荷が高くなり、エンジン保守には手間がかかっているようです。最近徐々に高出力のエンジンに換装されていますが、発電機や駆動用電動機は変更無く、エンジンは最大定格では使用せずレートダウンして従来どおりの出力に設定して使用して余裕を持たせ、保守の低減に向けています。この傾向は日本の気動車でも見られます。最近の気動車は1両1000馬力に近づき、在来線用としては十分な出力となったため、通常の運転ではエンジン負荷が以前と比べ軽くできるようになり故障の低減に寄与しています。
 ガスタービンではこのような負荷変動の激しい用途での実績がほとんどありません。長期間大量に使用されているガスタービン車両はアメリカ陸軍のM1戦車だけで、頻繁な負荷変動による熱疲労や燃料消費量増加など新たな問題をはらんでいる可能性があります。実際、老朽化しているM1戦車のガスタービンでは熱交換器の熱疲労による故障が問題になっています。

このページの先頭へ