電動航空機の衝撃

軽量化する電動システム

 電動機で空を飛ぶなどおもちゃの世界と思われていた時代、現在の電動ドローンの普及はまさに予想外でした。そして電動機と蓄電池でヘリを飛ばすというのもラジコンマニアの遊びと思われていたのもつかの間、人が乗ったヘリを電気で飛ばすことすらも現実のものとなろうとしています。

 鉄道では全く普及できなかったガスタービン、空だけはその軽量性に物を言わせてガソリンエンジンはもちろん、省エネが叫ばれた20世紀後半でも高効率ディーゼルを全く寄せ付けず、まさに独壇場としていました。
 しかし、そこについに電気の波が押し寄せようとしています。ある程度の出力を要する用途ではガスタービンに次ぐ軽量性は昔から電動機がその地位を保ってきました。効率と環境負荷の低さから鉄道では一気に主流となりましたが電化できない道路は往復動式内燃機関の独壇場、空はガスタービンの独壇場という状況が長く続いてきました。しかしいよいよこれが変わろうとしています。

航空機用電動機

 なんとも聞き慣れない言葉ですがすでに航空機業界では注目される用語の一つとなっています。鉄道用で最新の電動機の一つとして挙げるならやはり新幹線N700Sに採用されているものになりますが、重量は350kgで305kW。回転数は5000rpmです。重量あたり出力はオスプレイに使われている最新鋭ガスタービンと比べると十数分の一とまだまだ及びません。しかし、航空機用電動機として産声を上げつつあるものを見ると驚異的なものが現れています。
ターボファンのようなファンを駆動する場合は低速回転の必要性は少ないですが、プロペラを回すとなると低速回転しないと減速機構が必要となります。ある意味ではガスタービンヘリの泣き所がこれです。しかし、現在、この問題をも解決しかねない恐るべき電動機が誕生しつつあります。

Siemensが開発した航空機用電動機は発表時点で世界最高性能を歌い、50kgでなんと250kWの連続定格出力を持つのです。

しかもこの出力をセスナなどの小型機のプロペラを直接駆動できるよう、2500rpmという低い回転数で達成しているのには驚きです。電動機には磁気を効率よく扱う関係で鉄心が不可欠ですが、これが軽量化には大きなネックとなり、様々な工夫で鉄心を少なくしています。
 さらには磁界共振結合モーターと呼ばれる鉄心が不要の電動機が開発されつつおり、もし高出力のものが実現した場合、ガスタービンすら脅かす存在となります。

蓄電池の進歩

 ジェットトレインが誕生した当時、将来のハイブリッド化の蓄電装置の候補は出力的にフライホイールしかありませんでした。しかしその後化学2次電池が大きく進歩、GEはハイブリッドディーゼル機関車を試作していましたがついに蓄電池だけで5400kWの出力を30分間発生可能という途方もない量の電池を搭載した機関車を製作、営業試験に入ろうとしています。
 しかもこれは蓄電池機関車として単独で運用するのではなく、複数のディーゼル機関車で牽引するのが普通のアメリカの貨物列車に対し、牽引機のうち1両をこの蓄電池機関車に置き換えて回生エネルギーの吸収再利用をしようというのです。ジェットトレインの次に計画されていたALPSプロジェクトで開発中だったフライホイールは130kWh、用途が違うとはいえ20倍近い蓄電装置をリチウムイオン蓄電池でまかなえる時代となったのです。
 流石にこれだけ大量の電池となるとあの大きなアメリカの機関車の車体を持ってしてもその2/3を電池が占めるという異様なもので、15%の燃料節約にここまでやるのかと言いたくなりますが、まさしく時代の変化を感じさせるものです。

 現在、蓄電池の開発は急ピッチで進んでおり、10年ほどのうちに現在の電池の3倍程度の性能を実現、自動車への普及を目指しています。


http://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/jidosha_shinjidai/pdf/002_01_00.pdf

そしてその先には500wh/kgという数値が見えており、ここまで来ると航空機への本格的な応用が可能で近距離小型機の完全電動化、中型機のハイブリッド化が現実のものとなります。

 

 

 

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