前にお示ししたようにガスタービンは様々な構成をとることができ ますが、1軸式と2軸式・3軸式とでは大きく性格が変わってきます。一番目立つのが回転数と回転力の関係です。 同じ出力のエンジンの場合、回転数が同じであれば回転力は同じです。一方回転数が異なる場合は減速機で減速して お互いの回転数を同じにすると回転力は同じになります。ところがこの回転力というものは回転数が変わると変化す るのが普通です。ディーゼルやガソリンエンジンなどは回転数が変化してもあまり回転力は変わりません。しかし、 ガスタービンではこれらのエンジンとは大きく異なった変化をします。
まずガスタービンの基本構成である1軸式を見てみましょう。回転 数とトルクの関係は下の図のようになります。水色の曲線が回転力を、赤色の曲線は回転数と回転力を掛け合わせた 出力を示し、それぞれ所定の性能を得るために設計された値(両者が100%となる点、設計点)に対する百分率で 示しています。これを見ると回転数100%のところから少しでも回転数が落ちると回転力が急激に落ちているのが わかります。出力は両者の積ですからなおさら落ち込みが急です。このとき、消費される燃料の量には変化がありま せん。同じ量の燃料を燃やしていても回転数が落ちると圧縮機で圧縮する空気の量が減少してしまい燃焼ガスも弱く なり出力は落ちます。
そして回転数が80%を切ったあたりで曲線が消えています。つま り、これ以下の回転数ではもはや実用的な回転力を発生できず燃料は最大出力の時と同じ量を喰い続けるわけで使い 物になりません。燃料を絞ってアイドリングの状態となるわけですがアイドルと言っても定格回転数の60〜70% の回転数を維持しなければならず、さらに回転数が下がるとエンジンは停止してしまうのです。これでは広い範囲で 回転数が変化するようなものを駆動することはできません。車両はもちろん、スクリューやプロペラなどほとんどの ものに不向きとなります。ガスタービンはパワーバンドが狭いと表現されるのはこの狭い範囲でしか出力を活用でき ないことを言っているのです。
ところが、このように扱いにくそうな1軸式ガスタービンにも長所 があります。それは出力軸が圧縮機につながっており、圧縮機はタービンよりも大幅に段数が多く重いため、高速回 転していると大きな慣性モーメントを持っています。そのため、出力軸の負荷が瞬間的に変動してもフライホイール 効果で回転数の変動が少なくなります。通常、商用周波で発電される交流発電では回転数が変動すると周波数が変動 し機器に影響を及ぼしますからできるだけ回転数変動を避けなければなりません。つまり1軸式の回転数の変わりに くさがここでは重宝されています。
2軸式ガスタービンは1軸式ガスタービンで燃焼ガスを作り、排出
されたガスでもう1つのタービンを回している構造です。つまり1軸式ガスタービンを単にガス発生器として使用
し、出力は別のタービンから取り出します。これはちょうどオイルポンプで送られたオイルでタービンを回している
液体変速機と同じ関係になっています。下の図がその回転速度と回転力(トルク)の関係を表したものです。実際は
低速でもう少しトルクが高まる領域があるようですが大体下のような直線関係となります。これは液体変速機とよく
似ており、回転数が落ちるほど回転力が強くなることを示しています。
この図を見るとわかるようにエンジンの回転数が60%まで落ちると回転力は140%まで上がります。40%ま
で低速回転となるとトルクは実に160%に向上します。自動車に詳しい方ならこれの意味することはおわかりで
しょう。
この性質のため回転数が落ちても出力の落ち込みが比較的少なく、
比較的幅広い回転数で最大出力に近い出力を保持できます。40%に回転数が落ちても出力はまだ60%以上を維持
しています。
この性質は発車から加速するときに大きな力の必要な
列車にとっては実に有益です。従来、鉄道や自動車など車両用として利用されてきたディーゼルやガソリン、ロータ
リー(Wankel)などではこの低速高トルク特性がなく、下の図のようにトルクは速度にあまり影響を受けず一
定を保つ傾向にあり、結果的に回転数が落ちると出力が落ちるという性質を持っています。
そのためこれらのエンジンは出だしに大きな力が必要な車両用とし ては本来不向きな性能を持っており、それを補うために複雑な変速機や電気式動力伝達装置が発達したわけです。
次の図は戦車用ターボディーゼルと3軸式ガスタービンの比較で す。ガスタービンは2軸式と3軸式ではトルク特性は同じですが、ディーゼルは過給の有無でかなり異なります。過 給ディーゼルでは高回転領域でトルクが伸びるため同じ出力の無過給ディーゼルと比較すると低速回転でのトルクが 相対的にかなり低くなります。ガスタービンと比較すると下の図のようによりいっそう差が顕著になり、結果的に車 両の場合は加速性能の差として現れます。なお、ここで比較されているエンジンの最大出力はガスタービンが 1500馬力に対しディーゼルは1620馬力程度になっており、同一出力で比較すると低速トルクの差はさらに開 きます。
次の図は無過給ディーゼル、過給ディーゼル、2軸式ガスタービ ンのトルク比を示したものです。横軸は回転数で、設計回転数に対する%、縦軸はトルクで、設計回転数でのトルク に対する比率をあらわします。この例ではガスタービンのストールトルクは2.5倍を超えています。無過給ディー ゼルは低速まで比較的トルクが保たれていますが、過給ディーゼルの低速での弱さが顕著に示されています。
このように2軸式ガスタービンではそ れ自体が液体変速機のような性質を持っており、極端な場合、変速機もクラッチもなくしてしまうことさえできま す。国鉄のキハ391もそういう構造でしたし、海外でも変速機を持たないガスタービン機関車が試作されました。
最近では高効率軽量の電気式動力変換 方式が実用化され、この低速高トルクという利点は薄れつつありますが、構造の単純さと軽量性を要求される領域で は有利な特性となります。