何が問題だったか?

キハ391の試験により多くの問題点が明らかになってきました。

燃料消費

 これは当初から予測されていたことですが、同一速度条件で走ると181系の2倍近く燃料を消費してしまいました。一方、振子を作用させて高速運転を行なうと逆に燃料消費は減少し、条件にもよりますが1.7倍程度に収まったようです。
 アイドリング中の燃料消費も課題となりました。列車の運転全体を通してみると、惰行、制動、停車の時間が多くを占め、その間はガスタービンをアイドル状態で運転することになります。当時のガスタービンではこれが馬鹿に成らず、391系に搭載されたIM100-IR(CT58)では1時間に56kgの燃料を消費します。当時の「やくも」相当の編成用に6ユニット使用したとして合計1時間アイドル状態があると336kgもの燃料を捨ててしまうことになります。1運用ごとに数万円の燃料がまったく無駄になるわけで、当時の「やくも」の運用状況を考えると年間億のオーダーで損失が生じます。
  そのため長い下り勾配や駅停車時にはエンジンを停止することが真剣に考えられました。ガスタービンは始動後数十秒で最大出力を発生させることができるので運用自体には問題がありませんが、頻繁な始動、停止はエンジンの熱疲労を加速し、寿命の短縮を招くことになりかえって経費増を招く可能性がありました。
 また、低ノッチでの燃費悪化も問題でした。ガスタービンは全力状態が一番効率が良く、出力を絞るにつれて効率が低下します。全力の1/4に絞ると単純サイクルでは6割以上も燃費が悪くなります。振子を使い大半の区間を80km/h以上で走っても加速時以外にフルノッチが必要なことはほとんどなく、伯備線のように比較的平坦な線区では大半を3ノッチとか4ノッチ程度で流してしまうことになります。これは効率の悪い使い方となり燃費が悪化してしまうのです。

騒音

 危惧されていたとおり起動時の騒音が問題となりました。高速走行時は力行時でも在来の電車気動車と大差ないか、軽量な分列車全体の騒音はかえって低いという結果になりましたが、ガスタービンがストール状態でパワーが入る起動時の騒音は非常に大きくなりました。機械式1速の場合、ある程度速度が出るまでパワータービンの回転があがらないため、駅発車時の構内騒音はかなり問題となり、7ノッチ起動を5ノッチ起動にする必要があるとされました。

排気ガスの再吸入

 キハ391は変速機がないためどうしても起動加速力が弱く、まさに200キロ以上で走る0系新幹線電車並か、当時の平坦線向け特急電車並でした。平坦線なら特に問題はありませんが、勾配起動では加速に時間がかかります。動力車が小さい関係で吸気口と排気口が接近しており、急勾配にあるトンネル内でフルノッチ加速すると大量の高温排気ガスがそこに停滞し、吸気口から再吸入されることとなりました。その結果エンジン内部の温度が異常に上昇し、規定値を越えて保護回路が作動しエンジン停止となったのです。7ノッチ起動を6ノッチ起動とすることで排気ガス温度が低下し、保護回路が作動することはほとんど無くなりました。

レスポンスの悪さ

 ガスタービンは高速回転するため、非常に内部慣性が大きく、コンプレッサの回転が上がって初めてパワータービンのトルクが立ち上がるという特性を持っています。そのため高速回転時にはレスポンスは概ね良好ですが、アイドル状態からトルクが立ち上がるのにどうしても数秒のタイムラグを生じます。自動車ではこれでも大きな問題ですが、航空機や鉄道車両ではあまり問題とされません。ところがキハ391ではトルクが立ち上がるのに何と10秒以上もかかっていました。これではダイヤ査定でこのずれを考慮する必要があるのではないかと問題視されましたが、結局燃料制御装置の問題点が判明し、最終的に4秒程度に落ち着き、速比検知を行い指令ノッチに応じて自動変速する181系並となりました。

クラッチ強度

 変速機を持たないキハ391系ですが、クラッチ強度が不足しました。変速機構がないため中立から力行への移行時くらいしかクラッチが作動することはありませんでしたが、しばしば故障し、最終的にはクラッチ動作を無くし、終始直結状態とされました。一方向にしか動力を伝えないワンウェイクラッチは残されたため車軸からパワータービンを逆駆動することはありませんでしたが、制動時にもアイドル中のパワータービントルクが車軸に伝わるためブレーキ距離に軽度影響したようです。

制動性能の悪さ

 クラッチ廃止以前から判明していた問題点で、エンジンとは無関係でしたが、制動系統の全般的な性能不足が問題となりました。キハ391は130キロ運転を実現するため雨天時でも130キロから600m以内で停止する性能が要求されます。そのため制動距離を伸ばさないため、滑走時には制動力を制御して再度車輪を粘着させる機能(ABS)を各車軸に搭載していました。ところが実際の試験では予想に反して制動距離が長く、181系より不良な結果となり、ABS自体をオフにしたほうが制動距離が短縮されるような事態となりました。このとき採用の滑走検出再粘着装置に問題がありましたが、試験中は改善されないままとなりました。

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