キハ391改

自動車用ガスタービン

 キハ391に搭載されたガスタービンはCT-58というヘリコプター用のもので、当然プロペラやローターを回すために設計されています。一方、1950年代には自動車用ガスタービンの開発が盛んで、当時は機械式駆動が主流でしたから車両駆動に適した2軸式ガスタービンが設計されました。
効率改善のために熱交換器を付けたのが航空機用と大きく異なりますが、機械式駆動に適するよう回転数の範囲にも差があります。
航空機ではプロペラのピッチを変えることでガスタービンが最も効率が良い回転数で回るように調整し、最大出力を発生する回転数が最大回転数となるように出力タービンを設計するのが普通です。キハ391では車輪の摩耗状態にもよりますが、エンジンが最大回転数のときに130km/hから140km/hの速度が出るように歯車が設定されており、回転数が規定の1.05倍になるとエンジン停止するようにレブリミッタが取り付けられていました。
わずか5%の余裕しかなく、空転時にエンストすることが伯備線や山陽本線での試験中にみられたようです。
一方、車両用として設計されたものは最大トルク(起動時)と最高効率発生点を有効利用するため常用速度域で最高効率となった上で最高速度も稼ぐため最高効率発生回転数よりも高い回転数まで回せるようになっています。内燃式レシプロエンジンと異なり回転数が上がると出力は落ちますが燃料消費量は回転数に無関係に一定のためエンジンが焼けるようなことはありません。使用頻度の低い領域よりも使用頻度の高い速度域を優先したエンジン利用が可能となります。
自動車用では1.5倍、M1戦車用では1.2倍まで、いわば過回転を許しています。
これによって複雑で高度な制御が必要な大容量の機械式変速機なしでも特性をかなり改善できます。

 ノッチマンミニの有料版が発売となったので上記の回転数設定効果を試してみます。英語ページ制作の関係と線路などユーザー所有データ登録機能は不要なので一番安い7560円の英語版を使用しました。そのため以降は図の表記が英語となります。
 有料版にはキハ391のデータがはいっていますが出力と減速比以外の特性は変更できないため、仮想車両設計でキハ391相当の車両を作って比較します。
1M1Tの狭軌ガスタービン動車とし、エンジン出力を735kWにした以外はソフトの規定値のままの列車と、下の図のように回転範囲を150%にした列車(規定値は105%)を作成します。

列車の諸元は次のようになります。

両者の引張力曲線の比較です。赤色が標準設定105%回転数、黄色が150%設定のものです。減速比の差が引張力の差として現れ、110km/h付近で逆転しています。

下の図のように低速で加速力がかなり向上し、20‰以上の勾配均衡速度もその分向上、25‰では10km/hほど向上しています。

標準回転数設定の車両でもキハ391の実測データよりやや良い値が出ています。キハ391では吸排気損失、伝達損失で13%の出力低下を見込んでおり、さらに測定時の外気温が30度と高く、この仮想車両より多くの損失とガスタービン自体の出力低下が生じていたものと思われます。

動輪周出力でも両者の特性差はあきらかです。過回転設定車両のほうが低速からより高くなっているのがわかります。最高運転速度ではなく、70km/hから110km/h辺りで高出力を発揮するように設計されていた当時の在来線特急電車とよく似た特性とも言えます。

391が実際に試験された伯備線でのシミュレーション結果です。曲線通過速度本則としたものです。左列が105%回転の列車、右列が150%の列車のデータです。

加速性能の向上で1分ほど短縮しています。

燃料消費はどうでしょうか。

約24kg、9%弱の節減です。

では次に391で行われた曲線通過速度向上の影響を見ます。本則+20km/hのシミュレーション結果です。

いずれの列車も20分前後の時分短縮効果があります。当時の計画では線増や軌道強化、分岐器改良なしで同区間を2時間10分でダイヤが作成される予定でした。ノッチマンミニに付属する伯備線データは国鉄末期のもののようで、短距離ですが井倉、石蟹間が新線となっており、その効果を考えると当時の想定にほぼ一致していると言えます。

燃料消費が次の表です。

こちらでは約21kg、7%の改善です。

走行状況を見てみましょう。低速引張力の強化は上り勾配での加速に効いてきます。
次は中国山地分水嶺手前にある新郷駅通過後の25‰勾配での加速状況です。

25‰終端では10km/h以上の速度差が生じています。

不利になる高速域ではどうでしょうか。次は山陰側に出た軽い下り区間ですが、岸本駅通過後130km/hまでの加速です。
110km/h以上からじりじり追い上げられますが低速での高加速が効いてこの区間でも有利です。

同世代の在来線高速化試作車にクモハ591がありますが、これと走りを比べてみましょう。全電動車編成連接振り子という鳴り物入りで登場した591系でしたが電動機が110kWと小ぶり、交直両用設計のため変圧器により車重が重く、走りは485系4M2T編成程度ですがそれでも当時としては高性能です。下が3列車を比べたもので、藍色の力行曲線が591系です。591系の運転曲線にはノコギリ状になっている部分がありますが、これは特定の速度引張力条件が揃わないと一旦ノッチオフするか、ノッチ戻し機能で抵抗制御器を連続使用可能な特定の段まで一気に落とさないといけないためです。いわゆる絞り運転に相当する運転ができない抵抗制御車固有の制約によるものです。

新見駅発車後の上り勾配では591系が標準設計のガスタービン車より高加速ですが150%回転設計の列車には遅れを取っています。

 結局伯備線のような線形ではキハ391のエンジン設定ではガスタービンの本領が発揮できなかったことになります。そしてそのことは当時ガスタービン車投入を予定していた線区全てに当てはまったはずです。
キハ391の試験で問題となったフルノッチ起動時の極端な高騒音、低速域でのキハ181系よりも弱い加速力、そして燃費の悪さを出力タービンの改良だけである程度改善できたわけです。
出力タービンの改造がどの程度の経費がかかるか不明ですが、量産の見込めない鉄道用に専用のガスタービンを作ることは無理だったのかもしれません。キハ391の試験が真っ盛りの頃、すでに次期量産試作車両が検討され、高額な車両価格が大きな問題となっていました。
車両価格に占めるエンジン価格の比率がディーゼル動車より圧倒的に高く、航空機用の高い信頼性を犠牲にした車両用低価格ガスタービンの開発がすでに議論されていました。この車両用ガスタービンが上の特性を踏まえたものであったかは定かではありません。

このページの先頭へ