M1戦車が示したもので書きましたが、キハ391とM1戦車は開発時期がほぼ重なり、オイルショックが起こる前でガスタービンによる高性能化へ大きな期待が掛けられていた最中に開発が始まり、前者はオイルショックで挫折、後者はオイルショック後にガスタービン車両の将来性はないと急激に評価が変わったにもかかわらず開発は継続、量産へと進みました。 両者の試作車の誕生時期でみるとわずか4年のずれしかないわけですが、運命は大きく別れました。
キハ391では当時の国鉄の財政、非電化線区という採算性の乏しい線区への投入などという事情が反映され、如何に少ない予算で高速化するかが主眼でした。 そのためエンジンはとりあえず国産(ライセンス生産)によるヘリコプター用ガスタービンをそのまま流用、主眼が軽量化による軌道負担の軽減に絞られ消音器も必要最低限とし、加速性能と燃費は犠牲にしたまま変速なしの機械式直結としました。 一方M1戦車は大型トラック用に長期間かけて開発されていた車両用ガスタービン技術を発展させ、ガスタービンの欠点克服のため低燃費化に注力、戦場での隠密性確保のため戦車と言えども低騒音化に配慮されたようです。
最初のもしもは、キハ391にM1戦車の動力システムの思想を取り入れていたら、から考えてみましょう。 1970年時点でAGT1500のような車両用を考慮した量産エンジンはなく、大型トラック用の試作品がいくつかあった程度です。 しかも出力は大きくても600馬力前後と鉄道用には不足しており、391クラスでは熱効率が20%しかないヘリ用しか選択の余地はなかったようです。 変速機を持たせるとなると液体変速機ということになりますが、入力が1000馬力ともなると冷却系を含めると3トンをこえるようになりかなり大型で、これだけでガスタービン動力装置を超える重量となり不利です。
M1戦車では流体継手付きの機械式4速の変速機構を導入しています。 流体継手は損失が少ないため小型で、ショック吸収作用もあるため比較的精度の低い当時の制御技術でも機器の損傷を抑えて歯車の切り替えが可能でした。 流体継手は液体変速機のようなトルク増大機能はもちろんありませんが、広い速度域で動力伝達損失を2%から4%程度に抑えられるため発熱が少なく小型化可能です。 液体変速機で効率が良いのは狭い回転数範囲に限られ、しかも最大でも80%ちょっとくらいしかありません。そのため発熱が大きく装置全体が大型になるのに対し流体継手+歯車変速機の組み合わせは発熱はわずかで重量、効率面で有利です。
では2段変速の機械式ガスタービン動車を作っていたらどうなっていたか試してみましょう。想定する車両は国鉄がキハ391後継の量産試作車として計画していた、通常の車体構成で車端にガスタービンを床上搭載した3M3Tの編成とします。設計運転速度は当時と同様130km/hとします。 ノッチマンミニへの入力はM車3両、T車3両、M車出力780kWと当時の値に近いものとしました。 規定で設定される熱効率は21%、アイドル時の燃料消費量は最大出力時に対して18%です。 さすがにフリーソフトですのでこまかい変更をしたければ有料版へとなっていてできないようです。しかしこの数値はキハ391時代のガスタービンの性能とだいたい一致します。次の図は変速なしの引張力を示したものです。
2軸式ガスタービンのトルク特性がそのまま引張力に反映された曲線です。ストールトルクは設計速度の2倍となっていますがやはり低速では不十分です。 これではエンジン本来の性能が生かせず低速からの加速では低速回転高負荷状態の持続時間が長くなり燃費も悪化します。 次の図は2段変速にした場合です。 赤色の線が2段変速の時の引張力で、80km/hで変速するためそれ以上は重なっています。
80km/hから低速側で上にわかれた部分が低速段での引張力で、低速で高い引張力を発揮することとなります。 キハ391で7ノッチ起動時の騒音が極端に大きく、営業列車でどうするか問題となっていましたが、この車両であればほぼ4ノッチから5ノッチ起動で代用できることになります。 動輪周出力の差を見たのが次の図です。
低速寄りからエンジン出力が有効利用されることがわかります。
加速力曲線が次の図です。
加速力曲線は列車重量あたりの牽引力が速度とともにどう変化するかを示したものです。 横軸が列車の速度、縦軸は列車重量1トンあたりの列車を押す力(kg)となっており、その数値はそのまま‰単位の勾配抵抗に一致するため、勾配上で何キロまで加速できるか、つまりその勾配での列車の均衡速度を読み取ることができます。 そのため引張力曲線とは異なり、列車間の性能を直接比較できるグラフになります。 起動後3km/hあたりで線が折れ曲がったようになっていますが、これは静的摩擦と動的摩擦の移行により生じる走行抵抗の変化によるものです。 加速力曲線は列車重量が影響するため、2段変速機構採用により重量増加となった分、80km/h以上の部分で赤色の線が僅かに下になっています。
この改造で実際の走行にどう影響するか試してみます。 フリー版では実在路線の線路データはないので想像上の路線を自動生成する仮想線区という機能を使いテスト用線路データを作成します。 ローカル線から高速鉄道まで選べますが、当時の対象線区に合わせて山岳亜幹線単線路線を作ります。 自動生成された路線のプロフィールが次の図です。 赤い山は標高を示し、縦軸の数値がそのままm単位の標高です。 緑の細かい模様がありますが、これは曲線半径で縦軸の数値の10倍が半径となります。
総延長約
まずはノンストップで走らせてみましょう。 運転曲線が次の図です。黒の実線がフルノッチ力行、ピンクの実践が低ノッチ力行、青の点線が惰行、赤の実線が制動を表しています。 上り勾配惰行では制限を考慮してかなり効率的な運転設定になっているようで、無駄な制動が入りにくいエコモードでの運転のようです。 ノッチマンミニの運転設定にはスポーツモードのような速度重視の設定がありますが今回は使っていません。
低速域での加速力の差が現れ、上り勾配で低速から加速するときに顕著です。上の図の27km付近にある25‰での加速でははっきりとした差が生じています。
運転曲線を見ると片方の列車では80km/h付近で加速が一瞬途切れています。 これは2段変速のほうの列車に見られ、歯車切り替えによる牽引力の途切れによる加速中断です。 ソフト内では1秒が規定値にされており、フリー版では変更できません。
運転時分で見ると次の表のようになります。
5時間30分ほどの運転でわずか2分30秒の差です。 意外に差がつかないものです。
燃料消費量で見ると、直結1速では1973kg、2速では1842kgと131kg、6.6%の改善です。 あの当時の国鉄への軽油の納入価格はわかりませんが、仮に40円/リットルとして6560円の経費差となります。1編成でこの路線での運用は1日1往復として年間4878800円の節約。 M車1両あたりで10年間見ても1600万円ほどの節約にしかならず、変速機のコスト増を吸収できるか微妙です。
次の表は走行時のエンジン出力の時間分布を見たものです。 加速性能が良いためリ2段変速では力行時間が少なくなっています。 しかし、両者ともにポイントや曲線制限の多いこのような線区では惰行の比率の高さが目立ちます。
なんと運転時間の半分以上がアイドル状態にあるわけで、エンジンが長時間空回りしていることがわかります。 単純サイクルの普通のガスタービンではアイドル状態でも最大出力の15%以上の燃料消費がありますのでこのような惰行の多さはガスタービンにとって不利です。 変速機の工夫で力行時間が短くなってもアイドルでの燃料消費が多いとせっかくの効果が弱まってしまいます。 車で流行りのアイドリングストップをやるとかなり有効になりそうで、キハ391の後継を検討するとき頻繁なエンジン始動がガスタービンの寿命にどう影響するかなど実際に検討されたようです。 有料版ではアイドリングストップのような機能を試せるようですが無料版ではできないのでパスします。
とりあえずは2段変速にすることでスピードアップ効果はわずか、燃費改善効果はまずまず(?)といったところでしょうか。
停車駅数の影響を見たのが次の表です。停車駅が増えるほど起動、低速からの加速時間が増えるので2段変速が有利なのは当然です。
なお、表の運転時分には駅の停車時間は含まれていません。
停車駅数 | 1段変速 | 1段変速 (kg) |
2段変速 |
2段変速 |
0 | 5:33:06 | 1973.35 | 5:30:29 | 1841.66 |
5 | 5:36:04 | 1993.42 | 5:32:57 | 1853.12 |
10 | 5:38:57 | 2023.46 | 5:35:13 | 1869.81 |
34 | 5:53:00 | 2146.86 | 5:46:46 | 1941.12 |
各駅停車でのエンジン出力の時間分布を見たものが次です。
ノンストップとあまり変わりません。 この路線は各駅の進出側ポイント制限が35km/hか45km/hと厳しいためと思われます。
意外に効果が少なかった2段変速、ではもっと増やして4段変速にしたらどうなるでしょうか。 次の図が2段と4段変速との加速力曲線です。
4段変速は段数ではM1戦車と同じですが、この図を見ると鉄道向けのシミュレ0ションソフトですから中速以降を重視した減速比になっていると言えます。 そのため戦車のように低速側で極端に牽引力が強くなるようにはなっていません。
それでも2軸式ガスタービンの威力もあり機関車にしても十分すぎるほどの強い引張力を叩きだしています。 この加速力は現代の通勤電車並みで、まさに通勤気動車の誕生とも言えそうなものです。 しかし、特急用として考えた場合、1速目は活躍の場がほとんど無く、80km/hから102km/h付近の加速力差がどれだけ有効かにかかりそうです。 もちろん4速化は起動時の騒音低下には更に有効ということになります。
運転曲線上で3段目の効果が出ている部分を探すと次の位置でよくわかります。 30km/h以上から加速する区間が該当します。
運転時分では2段変速に比べ31秒の短縮、燃料消費で31kgの削減となります。 変速段数が増えると変速時の時間的ロスが気になります。4段もあると駅通過後にはほぼ1速からのシフトアップとなり3回フルに変速する機会が相当あります。 駅通過ごとに3秒惰行が増えるためこれくらいの駅数ではおそらく30秒くらいは遅くなっている可能性があります。 ポルシェのPDKのような機構で実質的な時間ロスを相当減少できる可能性もありますがこれほど大出力の変速機ではむりだったはずです。 有料版が出たらこの変速時間がどう影響するか試してみたいです。
ガスタービン車両の燃費を良くするには、エンジンをできるだけ低出力、低速回転で利用せず、アイドル時間を減らすということになります。 このシミュレーションソフトには速度、出力により効率がどう変化するか直感的によく分かるおもしろいグラフを表示する機能があります。 次の図がそれで、速度と引張力で効率がどのように分布するか、色で表現したものです。変速段数は1段、白色が最大効率で、元のエンジンの熱効率設定が21.1%ですから動輪までの伝達損失を加味すると白の部分で発揮できる熱効率が20%をやや下回ることになります。 この図からガスタービンが低速あるいは低負荷になるほど真っ青の領域が広がり、最大効率を発揮できる範囲が非常に狭いことがよくわかります。
ディーゼルでは次のようになります。
ディーゼルで効率が最も良くなる部分は最大出力を発生する所ではなく、より低い出力、回転数の領域です。しかも同一回転数で低出力に絞った時の効率の落ち込みが穏やかで、ガスタービンとの差は歴然です。 変速段では当然液体変速機の効率が積算されるため悪化しますが、エンジン自体の部分負荷の効率が高いためガスタービンよりも落ち込みが少なくなります。
2段変速が次の図です。
次が4段変速
変速段数が増えるほど低速まで高効率領域が広がります。 M1戦車ではAGT1500の回転数を120%まで許容していますのでこれよりなめらかになり効率のよい領域がやや広がりますがフリー版では許容回転数を変更できず、航空機用の設定のそのままとなっています。
機械式1速の場合、実際にキハ391で生じたように(391の場合は機器の不具合の結末ですが)クラッチ機構をなくして完全な直結状態にすることも可能で、クラッチの油圧システムの損失がなくなり1速方式ならではの効率の改善も可能です。 これにより力行時の燃費がわずかに改善します。 多段変速との燃費差はやや少なくなります。 子供心にガスタービン特急には立っていたらよろけるような出だしで加速してほしいと期待したものですが、1ノッチや2ノッチでは起動すらできないキハ391の発進加速の悪さは情けないものでした。 しかしここまで見る限り、乏しい予算と時間内で実現を目指した当時の国鉄陣の選択も妥当な選択だったとも言えます。
当時のガスタービン列車が想定していた20km/hから30km/hの曲線通過速度向上を行った場合の影響を見てみましょう。
20km/h向上の運転時分が次の図で、50分近く短縮されています。
30km/h向上の運転時分が次の図で、1時間以上短縮となります。
力行時間比率をはどうでしょうか。
20km/h向上の力行比率が次の図
30km/h向上の力行比率が次の図
いずれもフルノッチ使用比率が増えています。
燃料消費量を見ると、
速度向上 | 1段変速 | 1段変速 (kg) |
2段変速 |
2段変速 |
4段変速 |
4段変速 |
0 | 5:33:06 | 1973.35 | 5:30:29 | 1841.66 | 5:29:58 | 1810.63 |
20 | 4:44:43 | 1890.82 | 4:41:32 | 1776.30 | 4:41:12 | 1734.62 |
30 | 4:28:29 | 1892.27 | 4:24:48 | 1775.37 | 4:23:49 | 1741.79 |
加工精度の関係で大型と比べ相対的にすかすかになる小型のガスタービンの場合、圧縮機の圧力比を高くできないため圧縮機から出た空気は排気よりも温度が低いため熱交換器で排熱回収が可能で燃費改善に有効です。 可変案内翼や可変ノズルと組み合わせて部分負荷やアイドル状態での燃料消費低減にも効果があります。 AGT1500ではこれらの機構が取り入れられ、エンジン単体で30%以上、戦車搭載状態でも28%程度の熱効率を実現しました。 当時の日本でもM1戦車の開発に触発され防衛庁と川崎重工がアメリカから供与されていた古いM4戦車にヘリ用のガスタービンをそのまま搭載して試験を行なっていました。 時期はちょうどキハ07にガスタービンを搭載して試験を行なっていたころです。あまりの燃費の悪さに熱交換器付きに改造しようとしましたが実用化できませんでした。 ガスタービンのサイズや用途などよく似たことを運輸省と防衛庁が重複研究していたわけで、縦割り行政でよく見られる重複分散投資そのものですが、もしこれが一本化され集中投資されていたら、キハ391の構成も少し変化していたかもしれません。
熱交換器をつけるとその分エンジンは重くなります。 しかし、熱交換器は消音器の役目も果たすため動力装置全体で見ると重量増加は許容範囲に収まります。 AGT1500では元になったヘリ用エンジンが200kgほど、カタログ表記のエンジン重量が減速機を含めていることを考えると熱交換器による重量増加は600kg前後ではないかと思われます。 早速上記と同様の条件で直結1速、4速で仮想列車を作って見ましょう。
このソフトではM車3両で2.1トンほど重量が増えました。 一方エンジンの熱効率は31.2%と約5割近く改善、アイドル時の燃料消費は6割ほど低い設定です。 AGT1500より出力が低いガスタービンにしてはやや良い値です。
運転時分は重量増加が若干響いて次の表のようにわずかに長くなっています。
燃料消費が次の表です。
タイプ | 1段変速 | 1段変速 (kg) |
4段変速 |
4段変速 |
単純 | 5:33:06 | 1973.35 | 5:29:10 | 1810.63 |
再生式 | 5:33:16 | 1176.95 | 5:29:14 | 1025.63 |
いずれも4割を超える燃費改善となっています。
ディーゼルではこの区間をどのくらいで走るか試してみます。 想定する車両はキハ181に準じて390kWのエンジンを各車に積んだオールM編成ですが、最高速度はガスタービン車に合わせて130km/hとしています。 運転時分と燃料消費は以下のようになります。
直結1段のガスタービンより1分少々到達時分が長くなります。 燃料消費は単純サイクルのガスタービン車の半分近くと圧倒ですが再生サイクル相手では優位性が低くなります。、4段変速の場合は100kgの差まで迫られています。 ガスタービン車は軽量なため列車重量も軽くなり、見かけ上エンジン効率が数%高くなったのと同じ影響が出ます。 まさにその効果が出たようです。 ソフト上の規定値でも最大効率はディーゼルのほうが2割ほど上ですが列車重量が38トン近く軽く設定されるため、その効果が出たようです。
別項でも書いていますがアメリカ陸軍が未だに正式採用できないため量産に移れない高性能の車両用ガスタービンがすでに実現しています。 このエンジンは鉄道用として考えた場合、なかなか興味を惹きつける特徴を持っています。 当然効率面では最新の直噴高速ディーゼルより劣りますが、非常にコンパクトに駆動装置や消音器と一体化したパワーパックは高性能高速列車を想定するとなかなか魅力的です。
では列車の製作です。ディーゼル動車は直結4速液体式で各車710馬力の7両編成です。 710馬力のエンジン設定は正味出力であり冷暖房に駆動用動力を割り振る現在のJR各車の気動車でいえば実質的には187系に近い性能です。、ガスタービン動車はLV-100相当の再生式1500馬力のガスタービンを搭載、ディーゼル動車と出力を近づけるため3M4Tと付随車を多く入れます。 1つは機械式4速でM1A1戦車と同じ4段変速とします。 なお、1エンジン搭載で自然振子を想定する場合は反転する2つの出力軸を出す必要があり改良が必要ですが。 もう1つは電気式とし、高速発電機直結駆動方式とします。 この方式の発電セットはLV-100誕生時にアメリカ軍関連でも提案され、論文になっています。 重量は交流電車の変圧器程度あるかないかというもので、電気式の短所があまり出ないシステムとなっています。
対象線区は山岳単線を新たに作り出し、標高差1150m、進出側ポイント制限はやはり40km/h前後の厳しい線形とします。
次は各車の加速力曲線です。 緑がディーゼル動車、赤が電気式ガスタービン動車、黄色が機械式ガスタービン動車です。 電気式は定格速度以上では理想曲線の形を取り、途切れのない加速特性を持ちます。