ガスタービンの一番の問題点は燃料を大食いすることです。小型ほどこの傾向が強く、小型のものではディーゼルの倍以上燃費が悪いといわれます。どのように悪いのか、車両用として使うことを念頭に詳しく見ていきましょう。
部分負荷とはにエンジンが中途半端に仕事をしている状態を指します。鉄道で言えば惰行ではなく低ノッチで一定速度で巡行しているときのエンジンの働きぶりです。ガスタービンは最大出力で使用する限り、燃料消費の少ない効率のよいものがかなり存在します。しかし、この部分負荷状態では燃料だけ食ってあまり仕事をしない怠け者になります。どのエンジンでも部分負荷状態では効率が低下しますが、ガスタービンはそれがいっそう顕著なのです。下の図は単純な構造の小型の二軸式ガスタービンの出力と熱消費率の関係を示しています。この図の縦軸で10000 Btu/hp-hrは熱効率でいうとおよそ26%、15000Btu/hp-hrは17%となります。
燃料を絞って出力を30%程度に落とすと熱消費率は1.6倍程度悪化します。最大出力時の30%の出力を出すのに30%の燃料を消費するのであればよいのですが、この例では48%ほども消費することになります。このガスタービンは最近のヘリコプター用で、最大熱効率は28%とキハ391で使用されたガスタービンより5割近く高いのですが、部分負荷に関しては基本的にほぼ同じ性質を持っています。
次の図はより出力の小さいガスタービンの例で、単純サイクル(SIMPLE CYCLE)、再生サイクル(熱交換器付-RECUPERATEDのガスタービンのこと)それにディーゼル(DIESEL)、ガソリン(PETROL)の各エンジンの比較です。出力は500馬力となっています。縦軸は再生装置付ガスタービンの燃料消費率を1とした場合の相対的な比率で表しています。横軸は設計出力に対する出力率です。
次の図はより大出力のガスタービンおよび中速ディーゼルの部分負荷と燃料消費率の関係を示したものです。縦軸のsfcはspecific fuel consumptionの略で、燃料消費率を表します。kg/kWHrという単位は1時間当たり1kWにつき何kgの燃料を消費するかという意味です。0.2kg/kWHrは熱効率で言うと約42%、0.25kg/kWHrでは約34%となり、上に行くほど効率が悪いことになります。
WR21というのはRolls-Royce社が艦船用に開発した33800馬力の再生装置付ガスタービンです。これは熱交換器に加え、航空転用としては初めて低圧圧縮機と高圧圧縮機の間に中間冷却器を装備した機種で、最大効率は高速ディーゼルと同等の43%に達しています。中間冷却再生サイクルの効果で部分負荷での効率低下が大幅に少なくなっており、他の同クラスの航空転用ガスタービンのLM2500やSPEYなどと比べて燃料消費率が大きく改善しています。
次の図はGE社が5000馬力級のディーゼルとガスタービン機関車の効率が負荷に応じてどのように変化するか比較したものです。このクラスになると可変案内翼などの制御機構により低出力での効率悪化は比較的少なくなっていますがそれでもディーゼルと比べると悪く、その差は出力が低い領域でより開いています。アメリカなどの長距離重量貨物運用で試算した場合、5000馬力級でもディーゼル機関車より25%燃料消費量が多くなると試算されています。
さらに困るのがアイドル運転状態でも結構な量の燃料を消費することです。圧縮機は高速回転を維持していないと有効な圧縮空気を生み出せないため、アイドリング中も定格の60%以上、1000馬力程度のエンジンで通常毎分1万回転以上で回しておく必要があります。1000馬力のエンジンを一時間アイドリングするだけで40kg以上もの燃料を食ってしまいます。これはディーゼルの4倍以上もの消費となります。
再生装置(熱交換器)付のガスタービンでは可変静翼で排気ガスを絞り、排気温度を上げることで根再生装置で効率的に排熱を回収、結果的に燃料供給を絞ることが可能なためアイドリング時の燃料消費量をかなり減らせます。M1戦車の項で書いていますが、定格1500馬力のガスタービンでもあの当時の技術で毎時32kgまで減らすことができており、391に採用された定格出力1050馬力のCT58の52kgと比べると出力当たりでは1/3近くに低減され、単純サイクルのガスタービンと比べると大幅に有利なことがわかります。しかしそれでもディーゼルと比べるとまだまだ多く、同じ1500馬力のディーゼルを搭載したLeopard
2の毎時12kgと比べるとまだまだ不利でした。1000馬力目いっぱいで使っていても200kgから250kgしか食わないガスタービンがアイドリングでこんなに食われては鉄道では困りものです。力行時間比率の高い新幹線のような高速鉄道では比較的影響が少ないのですが、惰行比率が高い一般鉄道では問題です。条件が悪かったらディーゼル車の倍くらい無駄遣いするかもしれません。
燃料消費面のもうひとつの問題点として、回転数が落ちると燃費が悪くなるという点です。1軸式ガスタービンなら構造上仕方ありませんが、この欠点を補う2軸式にしてもやはり低速になるほど燃費は悪化します。ガスタービンは最大効率を発生する回転数が決まっており、これを設計点と呼びます。この設計点で回っている時に最大出力を発生し最も効率がよくなります。もしこのとき軸負荷が大きくなり回転数が落ちたとします。回転数が落ちるとトルクが大きくなるためある回転数でバランスします。たとえばトルク負荷が1.5倍になると回転数は半分となります。ディーゼルなどでは負荷増加により回転数が落ちるとトルクは増えないものの回転数低下に比例して燃料供給量が減ります。吸気、燃焼、膨張、排気が直列に順番に行れる内燃式レシプロエンジンは1回転毎に供給される燃料が決まっているので回転数が減れば時間当たりの燃料供給量も減るのです。ところが吸気、燃焼、膨張、排気が独立して平行に行われるガスタービンは回転数に関係なく燃料を供給可能です。つまり回転数が減っても燃料消費量は変化しません。回転数が半分になって回転力が2倍になるのであればそれでも問題が無いのですが、設計点から外れた回転数ではタービンの効率が落ちてしまうためトルクは1.5倍にしかならず、その差が損失となり、その分燃費が悪化します。下の図はガスタービンのトルク特性と、回転数とトルクが反比例の関係にある理想のエンジンのトルク特性を重ねて表示したものです。緑の線がこのエンジンのトルク曲線です。
緑の線はトルクと回転数が反比例するわけで出力は一定を保ちます。青線で示したガスタービンは回転数が落ちると徐々にこの緑の曲線から離れて行きますが、この差が損失となるのです。赤線の出力の変化を見ると下に開いた放物線の形をとっており、速度が低下すると出力が徐々に低下します。最近は電気自動車やハイブリッド車が一般に知られるようになり、これらの性能を示すグラフでこの緑の線のようなものを見たことがあるかもしれません。これは周波数と電圧を同時に制御して駆動される交流電動機の特性曲線そのものなのです。
このページの一番上でご紹介したガスタービンについて、回転数と燃料消費率の関係を見たのが次のグラフです。縦軸はg/hp hで、時間出力当たり何グラムの燃料を消費するかを表します。
キハ391に採用されたガスタービンではこのグラフを上に80ほど平行移動したような曲線となります。直結1速のみの変速機で運転していたキハ391では低速走行では燃料消費面で相当不利になるわけです。