ディーゼル排気の問題が深刻化する中、操車場の入れ替え用に低公害のGreen Goatと呼ばれるハイブリッドディーゼル機関車を積極的に販売しているRailPower Technologies社(現R. J. Corman Railpower)は、幹線用の天然ガス燃焼低公害機関車を提案しています。
天然ガスを貯蔵する方法には液化、圧縮、吸着の3つの方法があります。このうち一般的なのは圧縮です。液化すれば体積は非常に小さくなりますが、液化に多くのエネルギーと設備を必要とするため高価となります。一方、圧縮ガスの場合は体積が大きいもののコスト的に有利で、積載スペースさえ確保できれば汚染物質や二酸化炭素排出など環境負荷の少ないすぐれた燃料となります。大型の機関車であれば車体が大きいためかなりのガス貯蔵スペースを確保できそうですが、これまでの技術を使う限り問題があります。
ディーゼルでは天然ガス燃焼の実績がほとんど無く、現状では同じサイズのエンジンで軽油燃焼と同一の出力を発揮させることができず、出力を維持しようとするとさらに大型のエンジンが必要になります。現状の大出力ディーゼルでも重量やスペースで問題があり、天然ガス燃焼でより大型になるようでは高出力機関車に使うには不向きです。ガスエンジンは性能的にディーゼルと同等以上、効率もかなり高いため利用可能ですが、大出力のものはやはり大型で設置スペースに問題が生じます。
ガスを使うとなると安全性が心配です。事故の際、先頭にある機関車が損傷を受ける機会は多くなり、ボンベを破損
ガスの搭載スペースを如何に確保するかが問題です。テンダーのような別車両に積載するとなると編成長に影響し経営上マイナスとなります。そのため機関車内に積載できることが条件となります。そこでRailPower Technologies社が着目したのがガスタービンでした。近年の技術進歩でガスタービンの高速回転特性を活かした非常に小型の発電セットが実現できるようになり、5000馬力程度なら機関車級の搭載スペースがあれば車両の片隅に設置できるほどになったのです。ガスタービンの効率も徐々に改善されており、30%程度であった5000馬力級の効率は再生装置付で最大熱効率40%に達するものが現れてきました。RailPower Technologies社はSolar Turbines社のMercury 50に着目しました。このガスタービンは1992年にアメリカの国家プロジェクトとして始まったAdvanced Turbine Systems Programの一環で生まれ、商品化されました。構成は1軸再生装置付、出力4200kW(後に4600kWに向上)を14186rpmで発生します。下の図はその外観で、6000馬力を発生するエンジンとしては再生装置がある割に小型です。
次の図は構造とガスの流れを示します。
熱効率は次の図のように温度により変化しますが、基準の15℃(華氏59°)ではエンジン単体で40%を超え、発電端での効率が下の図のように38.5%となっています。
天然ガス燃焼の場合、排気ガスはきわめてクリーンで、次世代型燃焼器の採用でガスタービンで問題になりがちな窒素酸化物の排出も少なくなっています。次の図は窒素酸化物の排出量を比べたものです。自動車などで低公害エンジンとして有名なレシプロ式ガスエンジンおよび従来のガスタービンと比較したものですが、排気ガス中の窒素酸化物濃度は大幅に少なくなっています。
次の図は最新鋭の電気式ディーゼル機関車 EURO 4000 の車内構造を示したものです。エンジンは4210馬力で、車内はエンジン(赤)とラジエーター(緑)が所狭しと詰め込まれています。
当然5000馬力から6000馬力のエンジンを搭載するとなるさらに大きなスペースを必要とします。
次の図は車体サイズがほぼ同じアメリカのディーゼル機関車の発電装置、燃料タンクを取り払い、上記の6000馬力級ガスタービンと圧縮天然ガスボンベを配置した図です。大きなスペースを占めるディーゼル発電セットが無くなり、ガスタービン発電セットは片隅におくことができるため、大量のガスボンベを配置可能です。
この量はディーゼル燃料に換算すると、21000リットルに近いもので、中程度負荷の仕業であれば40時間以上継続可能としています。
有害排気ガスをほとんど出さず、低価格の圧縮天然ガスを燃料にでき、ディーゼルでは不可能な10000馬力に達する機関車を実現できる夢の技術、まさにoperator's dreamという表現でこれを紹介し、RailPower Technologies社は特許をとっていますが、今までのところ、この事業に対する出資者は現れず、R. J. Corman Railloadグループに吸収された同社のサイトでのこのプロジェクトに関する記載は削除されています。