Advanced Locomotive Propulsion System

次世代高速鉄道計画

 1991年に設立されたNext Generation High Speed Rail programによりアメリカは再び高速鉄道に注目するようになりました。これは低コストで効果的な高速鉄道を実現するための車両と地上設備の開発を目的としたもので、非電化高速車両の開発が重視されました。在来線を活用し、240km/h程度の営業運転と高い加速性能の実現を目標としたため、動力はガスタービンとなり、エネルギー回生機能を持たせるため大容量の蓄電装置の開発も目標となりました。両者を組み合わせた機関車の推進システムはALPS (Advanced Locomotive Propulsion System)と名づけられました。

蓄電装置

 この計画で一番ユニークなのは非電化車両でエネルギー回生をやろうとしたことです。発想自体は昔から自動車にあったものの、小型軽量性が要求される車両用蓄電装置で数千馬力という大規模なものは前例がありませんでした。しかしここにもアメリカならではの事情がありました。それは軍事への転用を視野に入れている点です。まだハイブリッド車という言葉が一般的でなかった当時ですが、将来的には多くの軍用車両、艦船が電気推進になると予測されていました。規模が違いすぎて自動車用の技術を直接転用できないため、基礎技術確立の一環として鉄道用を開発して試すという意味合いもあったようです。これらには軽量大容量で強靭、長寿命、高温低温環境で性能劣化が無いことなどが要求されるます。当時の2次電池技術ではこれを実現できるものは無く、宇宙用蓄電装置として研究されていたフライホイールが採用されることとなりました。フライホイールは普通の2次電池のように化学反応で電力を貯蔵するのではなく、基本的に電力を取り出す仕組みは交流発電機と同じですから温度など外界の影響を受けにくく長寿命で、短時間に高い電力を供給する能力があり、大容量のピーク電力回生にはもってこいでした。

 下の図は各種発電機、2次電池の能力を示したものです。縦軸は単位重量あたりに取り出せる最大出力、横軸は単位重量あたりに貯め込める電力量です。図で右に行くほど同じ重さでも長時間電気を供給できることを意味し、上に行くほどどれだけ多くの電力を一気に放電できるかを示します。

 従来のフライホイールは上の図の黄色の領域に位置し、車両用として使うにはサイズ、性能ともに不足していました。しかし、近年高速回転発電機と炭素繊維など高強度材料、磁気ベアリングなどを使った数万rpmという高速回転可能なものが開発され、性能は大きく向上、オレンジ色の領域へシフトしているのです。貯蔵電力量ではまだまだリチウムイオン2次電池などに及びませんが、短時間に出し入れできる電力は大幅に多く、重車両の回生を行うのに好都合です。このフライホイールの開発はテキサス大学電気機械工学センターに委託されました。試作中のフライホイールは15000rpmで130kWhの電力を貯蔵可能で、2000kWの高速発電機兼電動機が直結され、重量は8.6トンになっています。 容量が130kWhですから2000kWの出力を234秒間、1000kWなら468秒間発生可能で、制動時には同じ電力を同じ時間吸収可能です。5000馬力のガスタービン機関車の動輪周出力は4400馬力程度となるので、この装置を搭載すると約4分間にわたって7000馬力近い動輪周出力を発生できることになります。
 駅発車時や勾配登坂時に溜め込んでおいた電力を使うことで同じ出力のエンジンで高い加速性能、勾配均衡速度が得られることになります。また、ガスタービンの出力を平均化させたり部分負荷での運転を選らすような用途にも応用可能で、エネルギー回生と相まってさらに燃料消費量を減らすことができます。

 

 図は試作されたフライホイールで、ステンレス製の容器に入れられ内部は減圧され、ローターの空気抵抗を減らし発熱を抑えます。

 

 次の図は車載を想定した機構図で、ジンバルにより支持されフライホイールの持つジャイロ効果が車体に伝わりにくくしています。

 

高速発電機

 発電機は高速回転させるほど小さいサイズで大きな出力を発生できます。ガスタービン車両が注目された1960ー70年代にもガスタービンの高速回転を活かそうとする発想はあり、研究が行われていたものの実用化されることはありませんでした。しかも当時は半導体技術の制約で大容量のものはなく、効率面でも高周波交流を直流に変換したり連続的に周波数変換するときの損失が大きく、変換効率は液体変速機並みの80%に届かない状態でした。しかしその後の半導体技術の進歩で効率は向上し、総合効率で90%を超えるようになったのです。これだけ効率がよくなるともはや液体変速機に頼る必要は無くなり、直結駆動には劣るものの電気式の利点を前面に出して優位性を訴えることができるようになりました。

 次の図は2000kWの従来型発電機と2万rpmの高速発電機の大きさを比較したものです。重量で実に7倍の差が生じています。

この発電機の発電効率は97.5%に達し、の図は8000kWの発電機の例です。

次の図は8000kWの発電機の例です。
パッケージ全体の大きさは長さ2.2m、幅1mと非常に小型で、重さも4070kgしかありません。回転数は15000rpmとなっています。

 次の図はこの発電機を電動機として使用した場合のサイズを比較したものです。左が従来の10MW誘導電動機、右がこの発電機です。出力に10MWと8MWという差はあるものの、桁違いのサイズであることがわかります。

ALPSプロジェクトでは3200kW、15000rpm、重さ約1000kgの高速発電機が開発されており、その長さは140cm、直径は55cmと小型で、ガスタービンも含めた発電セットの重量が1675kgに収まるとされています。

 将来的にはこれらを次の図のように機関車内に装備する予定ですが、試験にはJetTrainを使用するため、フライホイールは別の車両に搭載し、ガスタービン機関車後部へ連結して行う計画のようです。

 

その後の動き

 2003年までは活発な動きのあったALPSプロジェクトですが、その後急速に縮小したようです。議会の予算委員会ではJetTrainが高速鉄道に採用される目処が立っていないことやこのようなシステムを開発すること自体へのリスクを危惧する意見が出され、2005年からは政府からの直接の補助金は打ち切りとなり、大学の研究の枠内で進める方向へと転換されたようです。

 

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